ボロボロの財布を愛用しているにーさん。


私は、自宅でお酒を飲むことはほとんどしない。飲みたくなったら、風呂上りだろうとなんだろうと、自宅を出る。一人暮らしって、こういうことが気ままに出来るのがいい。
猫にだって文句言われないよ。(酒臭く帰宅していやな顔されることはあるけど)

たまには新規開拓でもしようかとふらふら繁華街の裏道を歩いていると、路地の中でこうこうと燈す灯りが誘っているような気がして、ドアを開けた。
私は、こういう何気に入った店で間違ったことはないので、きっとその類いの出会いに恵まれるであろうという期待も込めて、ドアを開けた。

開けたらすぐにカウンターがあって、すでに中年男性客が3人並んでいた。
時間も結構遅かった。23時過ぎぐらい?

ほろ酔いで良い気分になっている中年男性客たちだった。聞いた感じ、常連の様子。
一見の私を不審がらずに、席を勧められる。

ひとり、カウンターにスマホとそれに似つかわしくない、ボロボロの財布が目に入った。

私は、結構男性の持ち物には目をつけてしまうタイプだ。いやな中年女性なのだ。
20代は、もともと小売業や貿易業をしていたのもあって、ついつい人の持ち物に値踏みをしてしまうのだ。
もうクセとしか言いようがない。もちろん、それを相手に何か言うわけでもないし、かといって自分の持ち物に自信があるかっちゅーとそうでもないのだが。

でも、明らかに20年以上は使いこなしていて、しかもマジックテープだ。今時中学生でも持たない。
いや、藤井四段がマジックテープ式の財布だったと話題が…。
興味本位(ほんまに、興味本位で)で、声をかけた。

「それ(財布)、随分使い込んでいますね」

直球で言えば、随分古いですねってことなのだが。

「あぁ、死んだ息子の財布でね」

をおお。しまった、そういうオチか。
いや、死んだ子供の話はちょっとキツい。
話をふった私が悪い、最後まで聞くしかない。
それを察してか、すぐに返しが来た。

「いやいや、買い換えようと思ってたんだけど、なんか馴染んでしまってね(笑)」

「…思い出だし遺品なんでしょう?」

「でもね、死んだ息子の財布っていうと、(俺の)好感度あがるでしょ?」

おい(笑)。

人が気後れしちゃうような話を、さらりと愉快に。

難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことをまじめに。
劇作家の井上ひさしの言葉である。

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